中小企業における人事戦略
(就業規則・人事制度設計・賃金制度について)
〜成果主義を中心とした人事評価制度と賃金制度をどう捉えていくか〜
大企業を中心に成果主義が導入されてから約10年、最近では約70%以上の企業が導入したと言われている。しかし、年功序列制度に代わるものとして期待されたこの制度が、最近色々と問題になっているのは何故か。中小企業は組織・従業員数・具体的経営方法等で大企業とは大きな相違があるため、大企業のやり方をそのまま導入してもうまく当てはまるとは限らない。従って、中小企業には経営実態に見合った独自の人事評価制度や賃金体系の再構築が必要である。
それでは、中小企業に合った人事評価(制度)・賃金制度をどのように作っていったら良いのだろうか?大企業における成果主義で一番問題なのは、評価者である部課長の数が多いため評価基準のベクトル合わせが難しく、評価者によって甘かったり辛かったりかなりの差が出るので、部下から不満があること。
その点、中小企業では部下の数も数十人から百数十人のところが多く、経営者が直接部下一人ひとりの仕事振りを見ているので、評価の軸が振れないという長所がある。
1.人事制度の推移
昭和20〜35年 |
生活 主義 |
年齢給 |
賃金は労働者の生活を支援することにウェイトを置いて年齢別の生計費カーブに合わせ支給 年功序列型賃金へ |
昭和44〜50年 |
年功
主義 |
年功給 |
総労働敗北をきっかけに労使協調路線が生まれた。 年齢だけでなく一人ひとりの能力に合わせた賃金へシフト。ここでいう能力とは学歴 、性別や勤続年数であり、複数の賃金カーブ |
昭和50〜 平成2年 |
能力 主義 |
職能給 |
・年功主義の終焉 ・マイクロエレクトロニクスの発達により経験による習熟よらない逆転現象が起こり 、体力的労働の解放から女性が男性と対等な仕事をするように ・大卒比率が急増等、年功主義から能力主義へ移行。日本独自の職能主義が発達 |
平成2年〜現在 |
能力主義+成果主義 |
役割給 |
・グローバル化の進展(特に中国へのシフト) ・ゼロ成長時代 ・仕事の変化に伴い、培った能力と発揮できる実力のミスマッチ(過去の能力の陳腐 化) ・本格的高齢化の到来(人件費の圧迫)などにより右肩上がりの賃金体系に耐えられ なくなった。管理職への年俸制の導入や、一般従業員への職務給や役割給の導入が検討・実施へ。その結果、国際化の進展に対応した制度構築が進み、定昇の廃止や自動昇格の廃止等の動き |
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基準 |
定期 |
賃金変動 |
組織 |
人件費 |
能力主義 |
人間 (労働力) |
あり |
上がる・同じ |
柔軟 |
総額は増えるのみ |
成果主義 |
仕事 (労働) |
なし |
上がる・同じ 下がる |
硬直的 |
総額コントロールがきく |
メリット | デメリット |
・人件費管理が可能 ・経営意識の高揚 ・実力主義の強化(負けたくないので頑張る) ・業績に応じた個別管理、・目標面接の有効性 |
・目先の業績を追い本質的な生産性向上を失う (握ったことしかやらない) ・失敗を恐れる(特に営業はかくし玉をもつ) ・不公平感の高まり、連帯感・チームワークの喪失に 繋がり易い ・部下育成の軽視 |
強み | 弱み |
・中小企業経営者の鋭い眼力 − 日々真剣勝負をしているので人を見る目は確か ・従業員の数が限られているため、経営者がほぼ全ての従業員を掌握できる。 〜 評価者が一人もしくは少数なので評価軸がぶれない。小回りが利き考え方を徹底しやすい。 ・従業員一人ひとりが自社の経営の実態・厳しさをよく知っている。 |
・経営者の持っている評価の仕方や基準を文書化・ルール化して、他の人から見えるようにすることが少ない。 ・大企業と比較し管理職の力が弱い。言われたことはやるが、自ら新しいことを企画しトップへ提案するブレーン不足。 ・多忙で中々新たなことに手を出す時間が取れないことと、金銭的余裕が無いため新しい制度改革に手を出せない。 |
ポイント | 留意事項 |
公平性・納得性・透明性 |
要は従業員みんながこれで納得できる制度であるかどうかということ |
自社に合った独自のものをつくる | 大企業のマネやマスコミに踊らされないこと、違って当たり前 |
手抜きのない運用ができるかどうか | 単に形を作るだけではなく従業員と管理者が、継続的にどれだけしっかりしたコミュニケーションができるかということ |
役員・部課長など上位者から意識改革と実行に踏み切る | 制度改革の実施に際しては、上位者の率先垂範なくして、部下の心を捉えることは出来ない |
ポイント |
留意事項 |
実力のある従業員を巻き込んで作っていくこと(例えば、プロジェクト方式) |
・新しい制度を作成するときには、役員や人事だけで作らない ・受け手である従業員の納得が重要 ・手作りで作っているプロセス全体そのものが、評価賃金制度の社内展開業務を兼ねている |
現場で使えるキーワードを重視する | 従業員が聞いてすぐにイメージの湧く分りやすい表現を使う。抽象的な表現を使わない |
リカバリーのできる人事評価制度 | リカバリーできる仕組みがあってこそ昇格・降格もフェアにできる |
真面目な運用 | 形だけの手抜き運用をするとすぐに形骸化する |
上司の率先垂範 | 上司から基準をクリアーにせよ。下はそれを見ている。 |
評価基準や評価結果のオープン化 | 周囲の事情がわかって初めて納得性が出てくる。公平だったら堂々と言える教えず・知らしめずでは納得性と信頼性はわかない |
基本を大切に、運用は弾力的に | ルールは大切であるが、ルールの杓子定規的運用では人は動かない。「そうはいっても」 という部分を大切にすること |
*人事評価制度と賃金制度の基本は[公平性」[納得性] [透明性]にある。従って中小企業においては、自社の従業員がみな納得してくれる制度を作ることが重要。
要は企業の実態に合った合理的な人事制度をキーとなる主な従業員を巻き込み、手作りで作成していくことが重要であり、最も効果的である。必ずしも高い費用を払って外部に依存しなければ出来ないものではない。
経営者として現在の評価制度に対する現場の声を謙虚に聞いてスピーディに対処していくことが重要である。経営者の目が行き届き小回りが利く中小企業の利点を最大限に活用することがポイントです。