退職金制度



退職金(年金)制度の概観


退職金制度を取り巻く環境

 政府は月例経済報告で、「いざなぎ景気」(57カ月、196511月〜19707月)を超え、戦後最長の回復期間となるとした。しかし、規模や地域別、業界別にみると景気回復はまだら模様で、格差の拡大も指摘されている。企業からは、「回復は一部の大手企業だけ」、「地域格差や企業格差は年々進んでおり、これからまだまだ広がっていく」といった指摘もあります。


 ある調査によると中小企業の8割近くが景気回復の実感がないと答えています。規模や地域別、業界別にみると景気回復はまだら模様で、格差の拡大を指摘されています。


 現在、好調な企業業績の一方で所得改善の遅れが個人消費の拡大や景気の力強い回復の大きな妨げになっている、との指摘がある。しかし、多くの企業では従業員の賃金改善以前に企業業績の改善が進んでいないことが最も大きな問題と捉えていることが明らかとなった。


 そのような厳しい環境の中、日本的雇用慣行の「終身雇用制」「年功序列型賃金」から米国型の「成績主義」「能力主義」経営を導入する企業が増えている。退職金制度もこの中で改革を迫られている。多くの中小企業ではリストラで、多数の退職者を出す事態が続いている。このため一部では退職者への一時金・年金の支払で、財務内容の悪化が加速し、制度を維持することが困難になり、経営再建のため、これらを見直す動きも出ている。また2003年3
月決算からは「企業会計基準の見直し」としての退職金給付会計(退職給付債務の表示)も始まり、これも制度見直しの一因となっている。


 一方、企業の財務上の要請から行われる、このような制度改革は、従業員にとって、各自の将来設計を壊すことになり、労使摩擦の原因を作りかねない。中小企業が置かれている困難な環境の中で、企業がこの問題にどう対応すべきか、退職金制度の再構築が求められている

退職金の目的


退職金の目的とは

・賃金の後払い

・在職時の功労報償

・老後の生活保障

などがある。

 しかしこの中には公的年金が担うべきものや、現在の状況では企業経営の立場からみて、合理的とはいえないものなどもあり、もう一度その目的を基本的に考え直し、時代の要請にあった、退職金制度を再構築する必要がある。


退職金制度の歴史


 日本の退職金制度は、江戸時代の「暖簾分け」がその始まりといわれています。

 

退職金制度の法制化・制度化の流れ

1936 年「退職積立金および退職手当法」

1952 年「退職給与引当金制度」

1959 年「中小企業退職金共済制度」

1962 年「適格年金制度」

1966 年「厚生基金制度」

と現在の制度の骨組みができました。

 

 しかし、バブル崩壊後(1990 年代)から不況が長期化する中で、従来の制度の維持は困難だとして、見直しの流れが始まりました。

 

2001 年「確定拠出年金法」

2002 年「確定給付企業年金法」

「適格年金制度」の優遇措置が、10年の経過措置後廃止決定

「退職給与引当金」廃止決定

 

制度の枠組み改革は現在も進行中であり、今後企業として、退職金制度をどう再構築していくかが大きな課題となっている。

 

退職金制度の分析


退職金制度の分析には、

 

・退職一時金か企業年金かまたはその併用か

・原資の確保は企業内か企業外積立か

・算定方式は何を基準としているか

・確定拠出か確定給付か

・給付水準はどの位か

 

といった視点が必要である。

 

最近導入されている新しい制度としては

 

・確定拠出年金制度(401k)

・キャッシュバランスプラン

・ポイント制退職金

・退職金前払い制度

 

などがあり、これらの新制度を採用する場合、従来の制度からどう移行するかも問題である。


大方の中小企業の分析を行うと

 


中小企業の退職金保全と税務


 大企業と違って、中小企業の事業主は従業員ときわめて近い関係にある。それだけに、役員・従業員の退職金制度などの改定にはより慎重に取り組む必要がある。特に経済の低成長・長期金利の低下という現在の状況を考えれば、原資の保全対策には充分に配慮し、「従業員の既得権確保」と、「過大な退職金負担から企業を守る」という二つの課題をいかにして達成するかを考えていかねばならない。

 また制度の変更に伴う法務上・税務上の取扱いについても慎重に検討し、関係者にその趣旨や内容を充分説明して、納得を得るとともに、事業主や雇用者が無用の負担を負うことがないよう、配慮することが重要である。


退職金制度の種類

 

支払い方法によって

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原資の確保の方法によって

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 退職一時金は、従業員が退職した後に退職金を一時金で支払うもの

算定基礎額を何を用いるかによって

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退職(企業)年金制度は、従業員が退職後に年金で退職金を受け取るもの


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 適格退職年金は、平成144 1 日からの確定給付企業年金法の施行に伴って、平成243 末日までの間に、廃止するか、厚生年金基金または確定給付企業年金あるいは(企業型)確定拠出年金などの他の企業年金制度に移行しなければならない。


 次に社内積立型であるが、これは、退職金の支給原資を社内に積み立てる方式のことをいい、株式公開企業では、2001 3 31 日決算期より導入された新しい退職給付会計のもとで、積立額を負債計上しなければならないこととなったこと、また、税制改革によって、退職金積立の損金計上が2003 3 月期決算以降は、全額損金不算入となることから、今後は多くの企業で退職金原資を社外に積み立てる社外積立方式に移行が進むものと思われる。

 

社外積立型の退職年金制度には

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 実際の退職金制度は、退職一時金と退職年金を組みあわせたり、社内積立と社外積立を併用して、社外積立退職年金に社外積立分を上乗せ支給することも少なくない。

 

各退職金制度のメリット・デメリット

 

退職金制度

計算方法

メリット

デメリット

基本給連動型退職金

退職時の基本給に、勤続年数に応じて定めた支給係数と退職事由係数を乗じて算出する退職金制度であり、次の算式で計算される。「退職時の基本給×支給係数×退職事由係数」

 

・勤続年数が長くなるほど退職金の金額も高くなるため、従業員の長期定着を図る効果を持つこと

・退職金額の算出が簡便である


・従業員の高齢化に伴って、企業は膨大な退職金原資を準備しなければならないこと

・在職中の功績や企業への貢献度が退職金にほとんど反映されないことなどがある

別テーブル方式退職金


(基本給テーブル凍結型)

※退職金算定基礎額を定めた独自のテーブルに勤続年数などを乗じて退職一時金を算出する方式(共通)

ある時点で、退職金の算定基礎となる賃金表(基本給テーブル)の書き換えを凍結するもの

・基本給連動型退職金制度の年功的要素を払拭することができること

・退職金原資の膨張を回避することができること

・合理的で納得のいくものでなければ、不公平となる

(第二基本給型)


退職金算定のために基本給を分割し、退職金算定の基礎となる基本給テーブルを別に作成するもの

(新規テーブル作成型)


新規に退職金算定基礎額テーブルを作成するもの

定額方式退職金

勤続年数に応じて、定額の退職金を支払う制度で、勤続年数別の退職金支給額表に基づいて退職金を支給する制度

・退職金支給額表によって退職金の支給額が把握できるため、従業員に分かりやすいこと

・退職金原資との比較が容易にできること

・退職金の管理がしやすいこと

・長く勤めた者ほど、多くの退職金を受け取ることができるため、個人の業績や企業への貢献度が反映されないこと

選択型退職金制度

退職金前払い制(月額給与や賞与等で現金給付する)か退職後給付かなどの選択ができる制度(退職一時金や企業型確定拠出年金などの企業年金を選択できる場合もある)である

・前払いか従来どおりの退職一時金給付かの選択できる

・新たな選択肢として、確定拠出年金という選択肢もある。


※ポイント制退職金制度

毎年一定のルールに基づいて付与するポイントの合計に、あらかじめ定めたポイント単価を乗じて退職金を算定する制度である。

退職金額=ポイント×ポイント単価×(退職事由別支給係数



ポイント制退職金制度の特徴


・貢献度を退職金に反映できる。

・退職金原資の膨張を回避できる。

・給与体系の変更への対処が容易である。

・移行時に不利益変更のおそれが生じない。

・企業年金と併用するハイブリット型が可能である。

・制度がシンプルで理解を得やすい。


種類

 

・職能(グレード)ポイント累積型

 職能資格制度・職務グレード制度における等級・グレードにより応じてポイントを毎年付与するもの。


・評価反映型

 同一等級・グレードであっても人事考課の結果により付与ポイントに差をつけるもの。


・退職時ポイント型

 退職時に格付されていた職能等級・グレードに応じて退職金ポイントを付与するもの。


・職能資格制度・職務グレード制度

 ポイント制退職金制度を導入するためには職能資格制度・職務グレード制度など、従業員が等級に格付けされている何らかの制度が導入されていることが前提となる。


職能資格制度とは


 従業員の保有能力に応じた資格(等級)を設け、従業員をいずれかの資格に格付けするとともに、その資格に基づいて賃金決定や、昇進、教育訓練などを行うもの。

資格等級に応じた退職金ポイントを設定することで退職金に勤続中の能力を反映させることができる。


職務グレード制度


 職務の大きさ・難易度のレベルを基準にグレードを設け、従業員をその従事する職務に応じていずれかのグレードに格付けし、グレードに応じて処遇する制度である。

 

ポイント要素の種類


・職能(グレード)ポイント

 職能等級(グレード)ごとにポイントを付与するもの。通常同一等級に1年滞留するごとにあらかじめ定めた職能(グレード)ポイントを付与する。

・勤続ポイント

 勤続年数に応じて付与するポイント。勤続年数にかかわらず一律のポイントとする方法と勤続年数が長くなるほどポイント数を逓増させる方法がある。


・年齢ポイント

 従業員の年齢に応じて付与するポイント。年齢に応じてポイントを付与する方法と年齢が増すごとにポイントを逓増させる方法がある。


・役職(職位)ポイント

 役職ごとにポイントを決め在任年数に応じてポイントを付与する。

・貢献度ポイント

役割をどれだけ達成したのか、どのような結果をあげたのかによってポイントを付与する。


移行措置


 不利益変更が生じないよう、現行の退職金制度のもとですでに受けることが確定している金額をポイント単価で除し、そのポイントを過去ポイント(持ちポイント)としその後に生じたポイントを加算していく。


確定拠出年金とポイント制退職金制度


  確定拠出年金の掛け金をポイントに応じて設定することで併設が可能である。以下の二つの方法がある。


・ポイントを退職一時金と確定拠出年金に割り振る方法

ポイント制退職金制度における1 年ごとに付与するポイントの一部を金額換算し確定拠出年金の掛金拠出に充当させる。


・確定拠出年金の掛金をポイントに応じて定める方法

確定拠出年金のみを実施する場合、掛金をポイントに応じて設定し、かつポイントは等級(グレード)に応じて設定することにより従業員の等級に応じて掛金を積み立てることになる。


イント制退職金制度と退職給付会計


 従来型の退職金・年金をポイント制に変更した場合の退職給付債務・費用への影響・効果はその変更内容により異なるが、賃上げに伴う退職金コストの影響は排除される。毎年の各従業員へのポイントの付与・総額などにより退職給付債務・費用の上昇をある程度コントロールすることができる。しかし将来の付与ポイントについてはモデルによる想定で将来のポイント上昇率を設定し、退職給付債務等を算定することになるため、毎期末想定と実態との乖離を見直す必要がある。


退職金前払い制度


退職金前払い制度とは


 退職金を支給する代わりに退職金の支払に必要となる原資を毎月の給与や賞与に上乗せして支払う制度のこと。

 既存の退職金制度を廃止・一部移行・並存など様々な方法が考えられる。又、前払いする退職金についてもその全額を対象とする場合、一部のみを前払いする場合等が考えられる。上乗せする賃金については、毎月の賃金の場合と、賞与の場合とがある。


メリット・デメリット


 企業側は退職給付債務が発生しないことが最大のメリットであるといえる。また成果主義賃金体系の一環と位置付けることができる。デメリットとしては、退職金の功労報償の性格を弱め、社員の忠誠心の抑制、長期勤続の抑制になる点が考えられる。一方、従業員側退職金の早期活用が期待でき、転職要因を阻害する反面自己責任が求められる。また、税制上退職金として扱われず、給与所得となるため、所得税の負担が多くなる。


前払退職金制度の設計


 前払い退職金制度の設計にあたっては生涯賃金の維持・保障、既得権の保全などに留意する必要がある。所得税・社会保険料などの負担が増えるため、これを企業側が負担することも考慮に入れる必要がある。


退職金の法的位置づけ


 退職金は、あらかじめ労働協約、就業規則、労働契約などによって、その支給条件が定められている場合には、労働基準法の賃金になる。


退職金の支払時期


 退職金は高額なため、支払時期について、通常の賃金と異なる支払方法が認められている。就業規則等で任意に定めることができ、分割払いも認められる。(労基法23.24・89)


退職金と税務


退職一時金に関する所得税法上の取扱い


退職所得=(その年中の退職手当等の収入金額―退職所得控除額)×1/2

他の所得と区分し分離課税される。


退職年金に関する所得税法上の取扱い


公的年金等の所得区分は「雑所得」